
Atelier momo
建築家、インテリアデザイナー
デザイン界のレジェンドたちにオマージュを捧げます。
こんにちは!
以前、アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)の自邸について記事を書かせていただきました。

それから1年以上日が空いてしまいましたが、今回、アアルトシリーズとして、アアルト・アトリエ(Studio Aalto)の記事を書いてみました。彼の建築哲学やデザインのプロセスにも触れています。
アアルト・アトリエってどんなところ?
アアルト・アトリエは、フィンランドの首都ヘルシンキにあるムンキニエミという静かな住宅街にあります。

アアルトが多くの大きなプロジェクトを手がけるようになり、それまで自宅兼事務所だった場所が手狭になったため、1955年に自宅から歩いてすぐのこの場所に新しく建てられました。その後、1963年には拡張工事が行われ、キッチンや食堂が増築されています。
現在、アトリエはアルヴァ・アアルト財団(Alvar Aalto Foundation)のオフィスとして使われており、見学も可能です。世界中の著名な建築家の住宅やスタジオを紹介するIconic Houses Networkに参加しています。
白い外観に隠された「ドラマチックな中庭」
アトリエの外観は、周囲の環境に溶け込むようなシンプルで控えめな白い壁が特徴です。うっかりすると通り過ぎてしまいそうなほど、目立たない佇まいをしています。

しかし、建物の内側には、全く異なる表情が広がっています。それは、まるで古代の円形劇場(野外劇場)のような形をした美しい中庭です。

この中庭は、ただ美しいだけでなく、アトリエの機能の一部でもありました。中庭に面した円弧状の白い壁は、冬場に室内の暖かい場所から野外の中庭に向けてスライドを映すためのスクリーンとしても機能したそうです。

外からは想像できない、内に開かれたドラマチックな空間が隠されているのです。
光と素材が生み出す心地よい空間
建物の中に足を踏み入れると、アアルトらしい細やかな配慮と工夫を見つけることができます。
アトリエスペース: 広々としたメインのアトリエ空間は、高い位置にある窓(ハイサイドライトやトップライト)からたっぷりと自然光が降り注ぎます。天井が真っ白で片流れに傾斜しているのは、この光を効率的に反射させ、部屋全体を明るくするためです。


CADがなかった時代、手書きで図面を描くには、広いスペースと十分な明るさが必要だったんですね。
製図室: 2階にある製図室も、大きな窓から自然光が入り、開放的な雰囲気です。

現在もアルヴァ・アアルト財団のスタッフが、アアルトの建築の修復などの作業に実際に使用しているそうです。
食堂(タヴェルナ): 拡張部分にある食堂は「タヴェルナ」と呼ばれ、アットホームな雰囲気に満ちています。アルテック(Artek)の丸みのある家具が使われており、温かみのあるインテリアです。

食器棚は、キッチン側からも使えるように設計されており、使い勝手の良さが考えられています。

ミーティングスペース: ミーティングスペースには、図面が保管された箱が整然と並んでいます。ここでも、壁の上部からの光が空間を照らしています。

アトリエ内には、アルテック(Artek)の名作家具や、アアルトがデザインした照明の試作品、建築模型、貴重な図面、プライウッド(曲げ木)のサンプルなどが置かれており、当時の活気やデザインへの情熱を感じることができます。






建物の維持・保存にあたっては、オリジナルの素材を大切にする姿勢が示されています。
アアルトの建築哲学とデザインプロセス
アアルトは、モダニズム建築の潮流の中で活躍しましたが、同時代の他の建築家とは一線を画していました。彼は、自然や人間性を大切にした、温かみのある建築を目指しました。彼の建築は、直線的な幾何学模様とは対照的に、有機的な形や空間の流れ(spatial flow)が特徴であり、しばしばフィンランドの湖や森からインスピレーションを得ていると解釈されます。これは「もうひとつの自然(Second Nature)」とも呼ばれるアアルトのデザイン概念に繋がります。


彼は「建築芸術は、いわゆる事務所的な環境では生まれない」と語ったとされています。この言葉は、彼にとってアトリエが単なる作業場ではなく、アイデアを練り、実験し、語り合う、創造のための「秘密基地」のような場所であったことを示唆しています。アトリエの建物自体が、光の取り入れ方、異なる素材の組み合わせ、人間的なスケール感など、アアルトの人間中心のデザイン哲学を体現していると言えるでしょう。
彼のデザインプロセスには、妻であり建築家であるアイノ・アアルト(Aino Aalto)との共同作業も不可欠でした。アトリエの食堂の食器棚など、彼女のアイデアが活かされている箇所もあります。また、アルテック(Artek)の共同設立者として、家具や照明のデザイン、そしてアトリエでの試作検証も重要なプロセスの一部でした。

アアルト・アトリエでデザインの源泉に触れる
アアルト・アトリエを訪れることは、彼の作品を見るだけでなく、彼がどのように考え、どんな環境でデザインを生み出していたのかを肌で感じる貴重な体験になります。シンプルな外観の奥に隠された豊かな空間、そしてそこに息づく光と素材、人間への優しい眼差しは、きっと皆さんの建築への興味を深めてくれるはずです。
アアルトの建築遺産は、フィンランド国内に広く点在しており、彼のスタジオを含む複数のサイトをユネスコ世界遺産に登録しようという取り組みも進められています。2025年2月1日、アルヴァ・アアルトの事務所が設計した13の建物は、ユネスコに正式に提出されました。
フィンランド、特にヘルシンキを訪れる機会があれば、アルヴァ・アアルトのスタジオ、自邸にも足を運んでみてください。偉大な建築家の思考の源泉に触れることができるでしょう。
写真館
外観







































アアルトのアトリエ














































































スタッフのアトリエ




























食堂など























今回は以上となります。最後まで、ありがとうございました。引き続き、アアルトの作品について書いていきたいと思います。