
Atelier momo
建築家、インテリアデザイナー
デザイン界のレジェンドたちにオマージュを捧げます。
北欧デザインの巨匠として世界的に知られるアルヴァ・アアルトとその妻アイノ・アアルト。彼らが手掛けた建築、家具、そしてガラス器などのデザインは、時を経ても色褪せることなく、今なお多くの人々を魅了し続けています。特に、夫妻が内装を手掛けた空間は、その心地よさから多くの人に愛されています。
今回は、アアルト夫妻がデザインした伝説的なレストラン、ヘルシンキのサヴォイに焦点を当てたいと思います。
ヘルシンキを見晴らす老舗サヴォイ
ヘルシンキの中心部、エスプラナディ通りに面した建物の最上階に位置するレストラン サヴォイ。テラス席からは、ヘルシンキ大聖堂やウスペンスキー寺院など、街の美しい景色を一望できる素晴らしいロケーションです。


このレストランは、1937年にオープンした歴史ある高級レストランで、その内装デザインをアルヴァ・アアルトとアイノ・アアルト夫妻が手掛けました。「ヘルシンキの街並みに親しみやすいレストランを作ること」をテーマに、夫妻は白樺の合板を壁と天井に使用するなど、柔らかな印象の空間を創り上げました。アルテック製品をはじめ、アアルト夫妻がデザインしたインテリアを存分に堪能できる空間は、シンプルながらも心地よい魅力に溢れています。テーブルに飾られている花も、アアルトベースの花瓶に丁寧に活けられています。



サヴォイのために生まれた名作照明ゴールデンベル
サヴォイの空間デザインの中でも特に有名なのが、アアルト夫妻がこのレストランのためにデザインしたペンダントランプです。このランプは、翌年の1937年パリ万博のフィンランドパビリオンで発表され、ほどなくしてゴールデンベルという愛称で親しまれるようになりました。
単一の真鍮を用いて作られたこの照明は、無塗装の真鍮そのままの魅力を活かしており、年月を経て酸化し、美しいパティナ(経年変化による痕跡)が刻まれていきます。彫刻のような美しさと柔らかな灯りが特徴のゴールデンベルは、アアルト夫妻とアルテックの想いを現代に伝える存在と言えるでしょう。



イルゼ・クロフォードによるモダンなアップデート
80年以上の長い歴史の中で、サヴォイは小さな改修を重ね、アアルト夫妻がデザインしたオリジナルの状態から少しずつ変化していきました。そこで、創業以来初となる大規模な修繕とリニューアルが実施されたのです。
今回、インテリアデザインを担当したのは、ロンドンを拠点に活躍するイルゼ・クロフォード率いるスタジオイルゼです。彼女たちは、1937年当初のインテリアから手がかりを見つけ、オリジナルを忠実に復元することを目指しました。すべての構造と建具はオリジナル通りに、空間のレイアウトもアアルト夫妻の図面や古い写真を参考に再現されています。
その上で、今の時代にふさわしい空間にするために、家具の張り地や素材が変更されました。例えば、メインダイニングルームのクラブチェアの張り地はネイビーからグレーに、ソファ席もネイビーからストライプに一新されています。テラス席で使われている611 チェアも、座面と背もたれがブラックレザーの特別仕様611 チェア サヴォイとなりました。

また、今回のリニューアルでは、小さなワインセラーの新設や化粧室のデザイン一新、スタジオイルゼが新たにデザインしたレセプションデスクやバーキャビネットの追加など、現代のレストランとしての機能性も向上しています。オープン当初から使われてきた家具と新しいデザインが溶け合い、新たな魅力が生まれています。
注)写真は2019年5月に撮影されたものです。レストランは、2020年6月3日にリニューアルオープンしました。本文と写真で整合しないところがあります。
自給自足の取り組みと新たな伝統
リニューアル後のサヴォイでは、空間だけでなく料理にも新たな取り組みが導入されています。2019年5月にシェフパトロンに就任したヘレナ・プオラッカ氏は、フィンランド料理とフランス料理を融合させたモダンなメニューを提供しています。







特に注目すべきは、都心にありながらも自給自足を目指す彼女の取り組みです。テラス席にある見事なハーブガーデンでは、常時50種類のハーブや花が栽培されており、毎朝摘まれた新鮮なものが料理に使われています。さらに、屋上では自家製の蜂蜜作りも行われており、デザートなどで提供されています。ヘレナ氏は「フィンランドの夏はとても短いので、夏の間はできる限り自給自足し、冬の間は夏に摘んだハーブでハーブソルトにして料理に使っている」と語っています。
モダンにアップデートされた空間と、革新的な食への取り組みが融合した新生サヴォイ。創業以来、多くの人々を魅了してきたこの場所は、これからもヘルシンキの新たな伝統を築いていくことでしょう。ヘルシンキを訪れる機会があれば、ぜひ足を運んで、アアルト夫妻のデザインした空間と革新的な料理を体験してみてください。
写真館
















































今回は以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。それでは、また。